防御と従属

アブに刺されると激しい痛みとその後も赤いしこりが残る。

この経験が繰り返されると、屋外でも屋内でもアブの羽音を聞いただけで
突然、以前に増した激しい痛みを体のどこかで感じるようになる。

受け入れがたいほどの痛みによって、想像した痛みであることに気づくまでに
仮想的なアブを虚しく探すほど滑稽な事態は周囲には不可解である。

痛みをあたかも待ち受けているかのような
無意識的な条件反射を人間は自ら装置化して再生産するようになる。

外部から痛みに対する防御と痛みへの従属は、表裏一体である。