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静的効果と動的効果


水を撒くときホースの先端を絞ると、水流は加速されてより遠くまで水が放出される。
水や風のような流体を加速するためにはノズル(加速管) が用いられてきた。
このノズルを反転させて太い方をホースの先端に取り付けるとホースの水は減速する。


ところが、加速管より減速管を用いた場合は、管の外部の自由流速よりも高い流速が得られることがわかった。このノズルの中にプロペラを入れてその回転からエネルギーを取り出すアイデアが最近の風車の歴史に登場した。
さらに意図的に風の流れに障害を発生させて後方に激しい渦流れを生じさせると、トリチェリーの原理から生じる低圧域によって入口での流れの加速がさらに促進される。(入り口と出口の増加する気圧差で先端部は冷却される。)入口付近で得られた加速する風速をプロペラで回転エネルギーに変換できる。

1と2は矛盾するように感じられる。ホースの場合はホース内部の流体に関しての原理である。加速管も減速管も全体が流体の中にある2の場合は、内部と外部のシナジー作用を考慮しなければならない。減速管と思われていた部品は、加速管として機能していたのである。間違った概念によってこの発明が登場するまでかなり制限されていたことになる。もっとも概念も含めて偉大な発明発見のテーマだから、こだわることは必要ないのであるが、発明者のレポートを見る限り、発明者自身がこの概念の重大な変更に気づいてない記述がある。

どのタイプの風車でも発電量は風速の3乗に比例する。
この風車は風車の静的なパーツが風速自体を増幅させるので3乗以上の効率がある。結果的に発電量が従来のおよそ5倍になる。エネルギーを取り出す場合は動的な回転装置だけではなく、風の速度自体を外部入力なしで局所的に増幅させる静的装置とのシナジー作用が発見されたのである。このシナジー作用には、外部と内部とのフィードバックが存在する。  Y.K

参照
風レンズマイクロ風車の開発
http://www.jsme.or.jp/publish/kaisi/040701t.pdf

位置センサー

雲の中またはその近くにいると雲は見えない。

雲には雲の境界線が観察者から見えるまで雲という対象物と概念は存在しない。それまではだだの水蒸気である。

観察者も一緒に雲の中に入っている場合、基準を外に探さなければならない。このような場合に基準になるのは地球という大気圏である。
さらに観察者も一緒に大気圏内に入っている場合、基準を外に探さなければならない。このような場合に基準になるのは宇宙である。
宇宙に対する姿勢や位置を正しく知るにはセンサーが必要である。
人間の場合、三半規管による姿勢制御で90度の重力との相互作用が学習することなく予め装備されている。しかし、高速で移動すると姿勢や位置を正しく知るこのセンサーはまったく役に立たなくなる。つまり宇宙に対する姿勢や位置を正しく知るにはセンサーを外部化しなければならない。天文学や航海術から幾何学が発展したのはこうした宇宙を基準とした絶対的センサーをデザインする必要があったのである。局所的な場所にいても地球を外から見るオペレーションを純化した。

しかし、飛行するどんな動物や昆虫でも生得的に装備された宇宙を基準としたセンサーが機能する。
たとえば、昆虫は偏光を識別できる。昆虫の複眼の中には、特定の偏光方向に敏感な視覚細胞が色々な方位に規則正しく集合している。また昆虫は自然界の偏光をうまく利用している。例えば、ミツバチは太陽の偏極を基準にして太陽の見えない曇天であっても方向を間違えないで長い距離を飛行できる。また、ある種のカゲロウは生殖期になると水溜まりの固有の反射光の偏光を求めて集合する。
昆虫には天文学や幾何学はなくても宇宙に対する姿勢や位置を正しく知るセンサーが予めデザインされている。 Y.K

デフォルト

教室でノートに書きとめられた情報はたいてい教科書に書かれている。
情報を複製するだけではつまらない。
情報は複製よりも生成されやすい。

シナジェティクスのモデリングを始めよう。複製された尊敬とちがって、それは喜びをとおした理解だ。試行錯誤というひとつの軌道を生成させるには、見た目は美しくない最初の軌道を本棚に飾ろうと思ってはいけない。失敗作を廃棄する学校の悪い習慣を受け入れてはならない。
失敗はフィジクスではなく、人類固有の神秘(ミスティック・ミステイク)であり、メタフィジクスへの入口だ。
失敗は優れたデフォルトである。
構造とパターンを統合するための。  Y.K

バックミンスター・フラーとイサム・ノグチ展

デザインサイエンスは個人的に所有できる人工物デザインを除外した最初のコロニーである。
この展覧会はこのコロニーの貴重な軌跡を再現した。
例えば、ダイマクション・カーは、車体とタイヤが受ける空気抵抗を軽減するために、風洞実験から生まれた人類初のエアロダイナミクスデザインである。

フラーとノグチという独立したオリジナリティの強い結びつきには、パウリの排他原理が働く。
1つの原子軌道に属する2つの電子は、全く同一の量子状態を持つことはできない。
2つの異なった粒子は、自転軸の向きに対して90度の方向を中心として唯一の大円軌道上を回転しているのが見える。共通した軌道が、あたかも人工物という同一の中心テーマを仮想的に存在させている。

「所有は、社会的な喜びより重要とは思われない。この新たな目的なくして、彫刻という意味は、存在し得ないのである。」
このイサム・ノグチの言葉から、「彫刻」を「デザインサイエンス」に入れ替えても、2つの異なった粒子は普遍的にふるまうことができる。
こうした軌跡は、この原子核コロニーに最初から属していたもう一人のアーティストサイエンティストであるショージ・サダオ氏しか編集できなかった。

だが、気をつけなければならない。
これらの交換可能な目的には、対象物に衝突しないとき、元にかえってくるブーメランのようなプリミティブな張力プリセッションがいまも存在する。
目標に到達しない過去のエネルギーはわれわれ自身に激突する。
われわれとは天才たちの仕事を伝記のように尊敬ばかりしている主観的傍観者の場合である。
“Man knows so much and does so little. ” RBF
これは彼の忠告だろうか。 
否、傍観者に容赦なく飛来するメタフィジクスのブーメランだ。

バックミンスター・フラーとイサム・ノグチ論というもっとも困難な評論は21世紀に持ち越されている。

Tetrahelix Room 3.coc.jpg
Best of Friends: R. Buckminster Fuller and Isamu NoguchiOn view at The Noguchi MuseumMay 19, 2006 〜 October 15, 2006
http://www.noguchi.org/exhibitions.html

異なった存在 

富の定義が対立すること、
これはもっとも激しい葛藤を引き受けることでもある。
この葛藤を乗り越えたエコロジストはほとんどいないとしても、
富の新たな定義が地球的民主主義で採択されるわけではない。
少なくとも気体である水素と酸素が互いに水分子として結合する場合、
自然は地球的社会経済性を単純に超越する有理数的な富のシステムを採用する。  Y.K

現金会計システム

超国家企業がお金を完全に独占し、法律上の抽象的存在となった巨人は、
人々の生命をどのように保護しながら育んでいくかという基本的課題をまったく無視した存在になったのである。

裕福な勝者を自負する市民社会の政治的指導者ばかりではなく、
勝者を志向しはじめる若者たちの生活が、たいていエントロピックになるのは、
惑星地球上での生命活動の目的が巨人のミニチュアでしかないからだ。

R.B.Fが1961年に『宇宙船地球号操縦マニュアル』で、
メタフィジクスの目的論を明確にし、
そして晩年の1981年に『クリティカル・パス』で再構成して示したように、
お金は交換の媒介であり現金会計システムに過ぎない。
将来にわたって人々を保護し、育み、教育し、
そして宇宙に適応させるための組織化されたノウハウこそが富である、
ということを思い出す必要がある。  Y.K

<都市と農村>から<宇宙と地球>へ

土地に依存し風土に根ざして成長する植物や家畜を食料とすることによって、
生命維持のために耕作したときに仮の根を発達させた。
今でも現代人は、豊かな生命維持に不可欠だと思い込む土地価所有の幻想に引きずられている。
金属は、プラスチックよりも早く食料を金属製の缶に詰めて、蒸気機関や自動車で運搬することを可能にした。
現代人は、秒速三十万キロメートルで世界を網羅する迅速な相互通信システムに依存している。
われわれの現実は、〈静止状態〉というニュートン的標準死から
秒速三十万キロメートルというアインシュタイン的標準動に変換された。
社会経済的なすべてが相互変換する全宇宙の動力学と同期したのである。
この<都市と農村>から<宇宙と地球>へはけっしてグローバリズムではない。
生命を宇宙に適応させるための組織化されるノウハウという重さのない<現実の根>の問題なのである。  Y.K