月別アーカイブ: 2009年9月

静止的思考

飛行機などの移動体のなかで思考するときの
質と密度は、静止状態とはかなり異なっている。
テンセグリティ構造は現状維持する場合でさえ、つねに振動する。
分散機能に費やされるエネルギーが構造を強化しているのである。
テンセグリティ構造が静止するときは、構造の死を意味する。
われわれは、静止して思考する習慣がある。
机上とか教室などの空間では、すでにすべてが脆弱になっている。

新米偽装

採れたての新米の季節になった。
寒冷地ではいまが稲刈りの最中である。
炊きたての無農薬の新米は格別である。
時折ぬか漬け用の糟のために精米するが、
このときばかりは新米の玄米を白米にしようかと迷うほどである。
無農薬の稲穂を脱穀したあとの稲藁を自然乾燥させる時には
特につよい香りが漂う。
これ以上のアロマセラピーがあるだろうか。
この藁をベッドの下に敷き詰めると深く熟睡できる。
稲と人間は神秘的な出会いがあったに違いない。
スーパーで販売される新米はブレンド米である。
ブレンドされるのは、異なった農家で栽培された新米だけではない。
古米がブレンドされる。
さらに、古々米もブレンドされている。
問題はその割合であるが、農協経由のパケージ商品は
通常全体のわずか2割程度である。
人間の味覚の曖昧さが証明されたような数字だ。
しかし、100%の新米を食べ比べる経験があるなら、
新米の占有率は、あきらかに味覚で感じられる。
さらに無農薬の100%の新米を食べ比べる経験があるなら、
新米の名状しがたい香りは、あきらかに嗅覚で感じられる。
休耕田を減少させて食料自給率を向上させたいなら、
もっとも優先すべきは100%の新米と表示した
パッケージ商品を他と区別すべきだ。
人間の五感を蔑んだ食品に未来はない。

ハイブリッドカー

F1用のエンジンは、ほとんど1年がかりで調整してから、レースに出る。
新品の部品で構成されたエンジンは、すぐには調子よくならないからであるが、
エンジン調整費は、エンジン開発費の一部でもある。
一方、量産型の新車の場合は、
ユーザが購入してからユーザが調整することになる。
走行距離に無関係ではないが、
修理または整備した2年後の車がもっとも性能は安定しているだろう。
私のハイブリッド車は、5万キロまでに
バッテリーとエンジンの主要な部品に明らかな不具合があった。
しかし、修理代はいつも全く請求されなかった。
それは新車保証の範囲内だったからであるが、
不具合の納得いく説明もなかったばかりか、
主要な部品交換の記録も修理履歴には残されていなかった。
少なくとも、壊れた部品は私の所有物だから交換部品の返還を何度も求めたが、
無視されたので、私は疑問を感じるようになった。
実際、定期点検時などに設計上の不具合を秘密裏に修理をすれば
ユーザには非公開にできる。
修理代が請求されなければ、
この方法に多くのユーザは気がつかないかぎり、
もっとも経済的な損失を被るリコールにはならないのだろう。
非公開を前提にした修理の履歴のデータベースによって、
型式は同じ新車でも性能はより向上していることになるが
もし、このデータベースをユーザが閲覧できたなら、
完全な整備済みの新車は販売できないこともわかるだろう。
F1レースカーに走行距離ゼロの新車が存在しないように。
整備済みの商品が新品とは限らない。
しかし、ユーザはいつも新品が好きだ。
新品が好きなのは、計画的陳腐化のよきユーザでもある。

素人

どんな科学者も最初は経験のない素人だった。
それを自覚しなくても専門家になれるが、
それでも本当の素人(layman)は両者を区別できる。
知識ではなく、もっとも原始的な思考方法に属するから。

熊は夏の終わりまでに交尾して受精した場合、
受精卵はできるがすぐには妊娠しない。
その受精卵は胚の状態で越冬前までの数カ月を過ごす。
秋の森で暮らして母胎の栄養状態が良ければ、
12月頃に胎盤にはじめて着床し、
冬眠中の2月頃に未熟児の状態で2、3頭の子を産む。
森のブナや栗の実が少なければ、胎盤を守るために着床しない。
十分な環境条件を準備してから確実に妊娠する熊には、
流産がないのである。
着床遅延は、予測的な計画のための戦略である。
森の番人は森以上にはならないテクノロジーを発明している。

危機

人間は役に立たないことを考えやすい。
危機はその集大成だ。
経済危機は、もっとも広く受け入れられることに
成功したコンセプチュアル・アートだ。
展示期間中はどんな兌換紙幣でも、入場料は無料になる。

時間

時間がないというのは嘘である。
本当に忙しい人は時間を作る。
時間は十分過ぎるほどあるから忙しくできる。

スパーク

夜間電力が安いのは、
発電した電気エネルギーを経済的に貯蔵する技術がないからであるが、
バイオスフィアは蓄積した電荷を、
電極間に存在する気体の本来は電気を通さない絶縁性を
休みなく破壊してスパークさせる。
破壊に成功すると
放電に伴う光の色は、気体の種類や組成によって異なるが、
雷やオーロラのように放電中の気体には
発光現象が生まれる。
放電は、距離を隔てたエネルギー間の相互作用である。
固体、液体、気体に続く、物質の第4の状態である
プラズマ状態では導体となる。
宇宙空間のほとんどは完全に電離したプラズマ状態だ。
電磁気学的に貯蓄できない人生のチャンスに遭遇した時は、
個人が社会的、経済的、そして心理的な絶縁性を破壊できる時でもある。

検索

新聞を読むより、
新聞を読まない方が知的な態度になったように、
ネットを見るより、
ネットで検索されない方が、
よほど独創的な時代になるだろう。
情報の共有が民主主義の擬態に利用されながら、
安価な無数のサーバによって、
情報の独占と編集が加速している情況では
真実は事実から遠ざかるばかりだ。

専門分化

自分以外の人間に頼むことができて、
しかも安く早くうまくやってくれるとしたら、
自分でやる必要はない。
つまり、専門家にならないで
知的に強欲に暮らしている人がいる。
これが、専門分化の目的である。