味覚

覚えた言葉は再現できる。
覚えた映像は再現できる。
しかし、味覚が再現できないのは言葉や映像として記憶できないからだ。
そして、
毎日同じ経験を繰り返しても、
五感のなかでも味覚の記憶だけは取り出せない。
味覚は単独では存在できない。
嗅覚あるいは視覚や記憶などの影響をもっとも受けやすい。
王様に仕える料理人が、まだ幼い師弟達に
王様と同じ料理を毎日食べさせるのは
味覚が鈍感すぎるので、長い学習期間を必要としている。
目を閉じて、直接手で食べ物に触れて口に入れることは、
本当の味を深く知覚する最も簡単な方法である。
聞いたり見ながら同時的に生成される味覚は、
ほとんど刷り込みに近いが
手という触覚器官は味覚の増幅装置になっている。
箸やフォークなどの食べるために道具を使う習慣は、
人類の起源から経過した時間から見れば
まだ馴染んでいないのかもしれない。
味覚が鈍感な、つまり
味覚だけが非映像的であり、その記憶がつねに曖昧なのは、
母乳の記憶から遠ざけるためかもしれない。  Y.K

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